
先日の選挙で自民党が圧倒的な勝利を収め、高市政権が本格的に始動した。
ライバル不在の中での大勝は、当面の政治的安定を約束するかに見える。しかし、マーケットの視線はかつてないほど厳しく、冷ややかだ。
投資家たちが危惧しているのは、赤字国債の発行拡大が続く中で、果たして金利上昇に耐えうる規律ある政策がなされるのか、という点である。
軍事部門への予算増強は進む一方で、それ以外の成長分野への投資が実を結ばず、単なる「バラマキ」に終わってしまうのではないか。そんな懸念を背景に、円安には歯止めがかからず、物価上昇が収束する気配は見えない。
むしろ私たちが直視すべきなのは、政治の安定という表層の裏で加速する、「円安・金利上昇・インフレ」という止まらないうねりである。
現金を「安全な資産」として銀行に眠らせておくことが、実は目に見えない形で資産を削り取られる高いリスクを背負うこと。そんな時代において、なぜ今、金融資産のポートフォリオとして「アート」を組み入れるべきなのか。
その理由は、三つの冷徹な経済的合理性に集約される。
1. 「モノ」が勝ち、「現金」が負けるインフレの正体
インフレとは、平たく言えば「モノの価値が上がり、お金の価値が下がる」現象だ。
100万円で買えたものが、翌年には110万円出さないと買えなくなる。
この時、100万円を現金のまま持っていた人は、実質的に10万円の購買力を失ったのと同じである。
現在の日本は、国債の金利上昇が現実味を帯び、物価は上昇の一途をたどっている。
この局面において、希少性の高いアートは物価上昇を吸収し、その価値を維持、あるいは増大させる「実物資産」として機能する。
もはやアートは、余裕がある時に嗜むだけの贅沢品ではない。インフレという名の静かな資産強奪から、あなたの資産の購買力と未来を守り抜くための「シェルター」なのである。
2. 世界から見た「日本アートのバーゲンセール」
現在の円安は、日本のアート市場をかつてない「歪み」の中に置いている。
世界から見れば、日本人のアーティストによるハイクオリティな作品が、為替の影響で「驚くほど割安」に見えているのだ。
想像してみてほしい。海外のコレクターや投資家が「今の円相場なら日本の現代アートを安く買い占められる」と動き出したとき、国内の価格はどうなるか。
当然、需要は一気に集中し、価格は国際基準(グローバル・プライス)へと急速に引き上げられていく。
あなたが今、国内のギャラリーで「少し高いかな」と迷っている作品は、国際的な物差しで見れば、不当に安いバーゲンセール状態かもしれない。
円安が定着し、価格の国際平準化が完了してしまう前に、世界に通用するクオリティの作品を手に入れておくこと。
これは、為替の歪みを味方につける、極めて賢い投資行動である。
3. 「世界基準」というフィルターを通した資産選び
ただし、どんな作品でも買えばいいというわけではない。インフレ時代に価値を持ち続けるのは、「海外マーケットの荒波に耐えうるクオリティ」を持った作品だけだ。
日本国内のコミュニティだけで評価されている作家は、国内経済が停滞すれば共に価値を下げるリスクがある。
しかし、各国のコレクターが欲しがる作家は、日本円の価値がどうなろうと関係がない。世界中の通貨(外貨)で価値が担保されるからだ。
アートを金融資産のポートフォリオに組み入れるなら、その作品が「国境を越えても通用する共通言語(クオリティ)を持っているか」という視点を忘れてはならない。
それこそが、究極の資産防衛の鍵となる。
4. アートギャラリーの「行政責任」を問う
インフレから資産を守るためにアートを買う。その決断をした後、次に重要になるのは「どこで買うか」だ。ここを間違えると、せっかくの資産防衛も画餅に帰す。
実はアート業界には、売りっぱなしにして「その後のことは知らない」というプレイヤーが少なからず存在する。
その典型が「貸しギャラリー(レンタルスペース)」だ。
彼らは場所を貸して作品を売る場を提供するが、売却後にその作家を継続的にプロモーションしたり、価値を高めるための戦略を練ったりすることはない。
売れた瞬間に、ギャラリー側の「責任」は消滅する。
オンラインを専業とするプラットフォーム型の会社も同様の危うさを孕んでいる。多彩な作品を大量にウェブ上に並べるが、購入後にその作品の資産価値を維持するためのアフターフォローや、二次流通への道筋を整えてくれるわけではない。
これは例えるなら、税金は徴収するが、その税を国民のメリットのために還元しようとする意思がない「無責任な行政」と同じである。
本来、行政としての政府が税金を預かるのは、それを無駄遣いすることなく、社会全体の利益を増やし、国民に還元するという「相互関係」があるからだ。
もし「全然話が違うじゃないか」となれば、有権者は次の選挙で政権を総とっかえする。
私たちは、預かった資源をどう使うかを常に監視する立場にあるはずだ。
5. 「還元する思想」があるか
アートギャラリーも、これと同じ思想を持つべきだ。
売った後もその作品の評価が上がり、結果として購入者に「資産価値」という形で還元できるよう努力を続ける。
この「大義」を大事にしているかどうかで、数年後の差は烈然となる。
ギャラリーは取り扱いをする作家を歴史に残す、あるいはそのアートによって社会をより良くするという「大義」を持つ必要がある。
単なる「売り場」ではなく、預かった対価を作家のキャリア形成という「インフラ整備」に正しく投資し、マーケット全体での価値を押し上げていく。
そんなガバナンスの効いたギャラリーを選ぶことこそが、資産価値を守る第一歩だ。
社会の変化をただ見守る段階は、もう終わりかもしれない。
ライバル不在の安定政権下であっても、私たちの生活の質を最終的に守るのは、政治の舵取りだけではなく、自分自身の「資産ポートフォリオ」による備えである。
国債の金利が上がり、円の価値が目減りし続ける中で、金融資産の一部を「アート」という、インフレに強く、かつ外貨建てで評価される実物資産に変えておくこと。
それは不確実な日本の未来に対する、エレガントで、かつ最も合理的な回答の一つになりえる。
タグボート代表の徳光が出演のYouTube番組「のらぎゃるおーかの現代アート学」
先週に引き続き第二弾でも現代アートについて色んなことを面白おかしくお話をしていきます!
グループ展「Layers」
2026年1月29日(木) ~ 2月17日(火)
tagboatは、現代アーティスト・月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATAによる3人展「Layers」を開催いたします。
本展は、記憶や時間、物質や情報がどのように重なり、操作され、可視化されているのか——3名のそれぞれ異なる素材や表現方法によって、“層(レイヤー)”というテーマを多角的に提示します。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
ARTIST
月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATA